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Author:terra
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2011パリブレストパリ参加記 12 3日目 悪あがき

■シークレットコントロール(818km?)~第9PC Tinteniac(867km) 悪あがき


→ルート

シークレットコントロールの片隅のマットレスに横たわり、目覚めたのはおよそ1時間後。

喧騒は先ほどとなんら変わりがありません。違うことといえば、完全に日が暮れ、窓外が暗いこと。つまり、外気温がぐっと下がり、冷え込んできたことを意味します。

少しでも良くなっていることを祈り続けながら出発準備。せめて寒さでストレスを感じることのないよう、冬場にしか使わない防寒用のロボキャップまで被ります。相変わらずの喧噪のなか、うちひしがれて出発する私に注意を払う人物は皆無です。ひときわ孤独を感じつつ出発。頼れるのは、ここまで一緒に戦ってきた、このバイクだけ。

漕ぎ始めはおっかなびっくり。どうだ…? 少しはマシになったか…?  お、ひょっとしてよくなった? ……はあ…、そんなに甘いものではなかったか。

でも、臨界点を少しでも先にしなければ。ここで50kmなりをやり過ごせれば、残りの300km弱もなんとかなるかもしれない…

昨年1000kmブルベを走ったときのほうが遙かに疲れていたのに、そのときも膝にくるなんてことはなかった。さっきまであれほど絶好調だったし、負荷を掛けていたわけでもないのに、なぜなんだ…?

あ、少し漕げるかもしれない。少し楽になった。またも後方から来た別のイタリア集団に吸収されたけど、こんどは向こうも遅いからペースを合わせることができる。ほんの少し緩解したことで、周囲の状況に注意を払う余裕が生まれました。

今やって来た集団は、とにかくお喋りぞろい。コッテコテのイタリア弁(?)で、それぞれ息継ぐひまなく、とめどなく話しています。一体なんの話題? 一人が延々しゃべり続け、それが終わると別の誰かが同じように。ううむ、コースについて、ではないよな。自転車談義でもなさそう。人生訓か? それにしては、順番に誰かが一方的にまくし立てるのが続いているだけ。ひょっとして、自分の見た変な夢の話とか? それなら聞かされる方は黙って聞くほかないよな…

そんな妙なことを想像しながら走っていると、わずかな時間でも辛さを忘れられます。しかし、やはり膝の具合は想像以上に悪かった…その区間はさいわい下り基調で脚に負担がなかっただけでした。少し上り坂りになった途端、再び右膝に痛みが! そしてそれは、徐々に激痛に!

ついに右脚を使うことは諦め、ビンディングから足を外してしまいます。そして左脚だけを使った片脚ペダリングに。これでゴールは絶対無理とわかっているので、もはや最後の悪あがきです。数百mを片脚ペダリングで進み、休ませていた右脚もビンディングには嵌めず、添えるようにして、また数百m。そしてしばらく空走して距離を稼ぐ…それの繰り返し。

徐々にそのパターンに加え、右膝に手をやってマッサージ、という動作も加わって来ました。末期的です。
そのうち、左脚で片脚ペダリングをしようとすると…ついに右膝だけでなく、左のアキレス腱にまで痛みが走るようになってきました。

そして、右膝は遂に恐れていた臨界点を超えてしまいました。膝の前側に関節ができた感覚はより強くなり、そこを無理に折って漕いでいるかのよう。クランクが回転するたびに「ゴキっ」「ボキっ」。衝撃が走り、悲鳴が漏れます。先ほどのイタリア勢からはすでにちぎれ、続いてやって来た集団からもドン引きされているのがよくわかります。なにしろ間断なく

「ぐッ」
「ギっ!」
「あ゛い゛でっ!」
「痛えッ」

と言った声が漏れていたわけですから…

沿道からは、真夜中近いのに声援が。しかし変な東洋人が奇声を発して通り過ぎると、みな黙り込んでしまいます。

そのうち、後ろから来た親切な誰かが声をかけてくれました。

彼「大丈夫?」
私「…そうは、思え、ないね」
彼「どこか具合が悪いの?」
私「右膝が…ひどく痛むんだ」
彼「…プフーッ(笑い声ではなく、下唇を突き出して前髪を吹き飛ばすような音)それはいけないな」
私「(ちょっと声をかけてみただけなのにヘビーなやつに当たってしまったと思われてるだろうな)あなたの、ご親切に、感謝。どうぞ、先に、行っちゃって」
彼「そうかい? 悪いね…早く良くなるといいね…じゃあ、グッドラック!」

私が自分のような状態の人を見かけた場合も、同じように「がんばって!」としか声をかけることはできないでしょう。この彼がどこの国の人かはわかりませんでしたが、少なくとも善意で声をかけてくれたことは確か。

そこから数分すると、横に並んだ誰かから再び声がかかります。はじめのやりとりは全く一緒。でも途中からが少し違いました。

次「…そうか。で、痛いのは膝の前、それとも後ろ?」
私「前、だよ」
次「なるほど。それならサドルが前すぎることが原因と考えられる。思い切ってサドルを後ろに下げてみてくれ」
私「わかった、やってみるよ」

後続の邪魔にならぬよう、路肩に停車し、アーレンキーを取り出してサドルを後ろにずらします。今回の彼は一緒に自転車を止め、君のバイクを押さえてあげよう、と言いながら私の手元をヘッドライトで照らしてくれます。私はこういうときに焦ってしまいがちで、遂にその彼が作業を替ってくれることに。ライトで照らすと、無精髭の似合う短髪のイケメンです。申しわけないな、と思っている間に、びっくりするほど後ろにずらした状態で固定してくれました。

イケメン「OK、じゃあ、これで試してみてくれ。それと次のコントロールについたら、ドクターに診てもらうこと。膝に効くレメディを処方してくれるはずだから」
私「わかった…ありがとう、ご親切に感謝!」

颯爽と去って行く彼。作業中に互いの出身国を教えあったところ、ポルトガルからとのこと。ドライではあるけど、親切な人だ!

ただ、あいにくそれでもよくなりませんでした。あと2、3時間早くサドル前乗りの事実に気がついていれば悪化しなかったかもしれないのに。後悔の念に苛まれます。

たしか、チャンドラーの推理小説『長いお別れ』にこんな一節がありました。

「女を口説くのは、何百万ドルもかかる大事業だ。しかも、1セント惜しむだけで失敗する」。

ブルべだってそう。これだけの距離にもなると、エクストリーム・スポーツの領域です。バイクの整備に細心かつ万全の注意が必要だし、ほんの少し気を緩めると破綻する。今回はまさに、出発前の組み立て時にサドルのセッティングを誤ったか、道中のライディングポジションに慢心があったはず。だからこんな事態に立ち至ったのでしょう。

…しかし。

これまでだって、数え切れないほどのトラブルに遭い、それでもすべて克服してきました。

四国一周1000kmのときは、スポークが折れてホイールがポテチになっても走り切ったじゃないか。

アタック北信600kmのときは、完走率32%だったのに、着順はあの近藤さんの次だったじゃないか。

度入りアイウェアのつるが折れて、見えづらくて苦労したこともあったし。

晴の予報が雨と雪まで降って、薄着で氷点下の中濡れて凍えそうになったこともあったよな?

iPhoneを家に忘れたうえにガーミンのGPSがフリーズして、キューシートまで風に飛ばされて、「ここはどこ」状態でも完走したよな?

落車して鎖骨が折れたまま、120km走ったこともあっただろ?

いままで一度もリタイアしないで。全部完走してきて。

やっとの思いで参加できたパリブレストだろ? 

次はまた4年後なんだぞ? 

そんなにあっさりやめちゃっていいのか? 
どうなんだ? いいのか、それで??



…一方で、こんなことも考えています。

この痛み方は今まで経験したことがなかった。
骨折したときよりも厳しい。

ここで無理をして、治るのに数年かかる故障になったらどうする?

パリブレストパリを最後に、自転車趣味を終えるならそれでいい。でも、こんなにいろんな人と知り合えた刺激的な世界を、そのまま捨てられるのか?

今後も続けたいなら、ここはDNF(リタイア)しておいたほうがいい。
体力には余裕があったんだし、膝のことさえなければ全然余裕だったんだし。


…そう考えると、DNFする決心がつきました。…そうだな。次に繋げよう。





ブルべを初めて以来、一度もやったことのないDNF。











そして、いちばん大切な場所でのDNF。









残り数kmをほぼ空走で進み、867km。

タンテニアックのコントロールに到着。

ここでも出迎えの人たちに盛んに拍手を受けます。しかし、もう余裕はゼロ。





衆人環視のなか静かに停車し、ゆっくりと自転車から降りました。








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Comment

だめだ。泣ける。

読んでて泣きそう。。。
4年後、また行きますか。付き合いますよ?!

No title

完走おめでとうございます!
タイム狙いで突っ走って自滅してしまい、お恥ずかしい限りです、、
次回どうしようかな。膝のことさえなければ、イタリアの1001migliaに興味があります(^_^;)

残念…

すごく速いので、同じ日にスタートして同じコースを
走っていたとは思えないくらい、様子が違いますよね?(笑)
今までDNFした事がないなんて驚きです!
まだまだ若いし、4年後には80時間で大丈夫じゃないですか?
速いのに時間をいっぱいに使ってPBPを存分に満喫する
EijiTomさんみたいな楽しみ方もカッコイイですよね♪
この経験のおかげで、次はいろんな楽しみ方が出来ますよ~きっと!

RE:残念…

お疲れさまでした。
前日にはヴェルサイユでご飯をご一緒させていただいたり、いろいろお話しできて楽しかったです! どうしようもない焦り性なので、トラブルがあったときのことが心配で時間のバッファを確保しようと急いでしまう性分なのです。でも今回は、それが裏目に出てしまったかも。

次回は(次回という機会があれば)食事や観光を楽しむ余裕をもって走れそうですよね!
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